インド音楽史の中で、紀元16世紀に著わされたラーマーマーティヤ著『スワラ・メーラ・カラーニディ』は特に重要な意味を持つ。他の理論家の記述とは異なり、伝統的音楽記述・定義(ラクシャナ)と実際の音楽(ラクシャ)の乖離を明確に意識して記述を行ったからである。

伝統的定義に敬意を払いながらも、当時の音楽実践を観察し記述した結果、その書の体系には一見すると矛盾が存在するように見える。しかしそれは、著者の同時代音楽に対する真摯な記述態度を反映したものであった。