西洋歴史学の伝統とは異なり、インド文化では、歴史を「イティハーサ(斯くの如くありき・伝説・伝統・歴史)」と言う。ここでは、過去は客観的に認識された史実ではなく、物語として語られた過去である。

この概念を理解すると、インドの音楽理論書記述に見られる過去の音楽と当時の音楽を明確に区別せず記述するといった特徴も理解するヒントとなる。

インドの音楽史研究の場合、この点を考慮しながら史料研究と文化人類学的に伝承を研究することが必要である。いわゆる歴史民族学や歴史人類学の方法論が有効である。